映画紹介『戦火の勇気』

おすすめ度:★★★★☆

英雄はいたのか。あの時何があったのか。勲章とは何なのか。全てを語るは真実のみである。主演はデンゼル・ワシントンの他、メグ・ライアン(『トップガン』など)、マット・デイモン、スコット・グレン(『バックドラフト』、『レッド・オクトーバーを追え!』など)が出演。監督は『マーシャル・ロー』のエドワード・ズウィック。音楽は『コマンドー』、『レッドブル』のジェリー・ゴールドスミス。

あらすじ:

湾岸戦争中の砂漠の嵐作戦の最中、戦車部隊隊長のナサニエル・サーリング中佐はクウェート領内で敵の戦車と誤認して部下であり親友のボイヤー大尉の戦車に向かって射撃命令を下し、同士討ちを犯してしまった。

湾岸戦争終結後、サーリング中佐はペンタゴンに戻り、軍のセレモニーや名誉勲章などを扱う部署での事務職を命じられる。サーリング中佐に命じられた次の仕事は、史上初の女性名誉勲章受章者になるかもしれないカレン・ウォールデン大尉の調査だった。彼女は医療ヘリに乗り、勇敢に戦って負傷兵を救助した軍人として候補に挙がっているのだ。史上初の女性名誉勲章受章者と言う事で軍にとって最良の宣伝材料になると考えていたペンタゴンは彼女に授与する事に大乗り気だったが、調査を始めてすぐにサーリング中佐は不可解な点に気付かざるを得なかった。

コメント:

錯綜する戦場で、真実は時として闇に葬られる。しかしどんな戦争にも英雄が必要で、名誉勲章に値する英雄を「作り上げなければならない」というアメリカの抱える問題、この映画はそれを提起しているのだ。

正義の人といえばこの人、デンゼル・ワシントンをはじめ、メグ・ライアン、スコット・グレンといった名優が名を連ねている。特にゲソゲソに痩せたマット・デイモンには要注目。

(※これより先ネタバレを含みます)

この映画の悲しい所は、悪人も英雄もいないという点にある。

友軍への誤射という過去への自責の念から真実と正義を求めるサーリングと、名誉と面子がかかっている軍がぶつかり合う構造がアメリカの内憂をよく表している。

物語の後半、サーリングの調査が一通り終わって一見すれば、モンフリーズが臆病風に吹かれ、ウォールデンの命令に背き、その訴追を免れるためにウォールデンを見殺しにしたように見える。しかし実際には違った。

自分を見失っていたのはモンフリーズではなくウォールデンであり、意地になっているウォールデンに対し、モンフリーズが折れる形となった。ウォールデンはあくまでも撤退しないこと、そしてモンフリーズに銃を渡さないことにこだわり続け、さらには錯乱して手当てをしようとしたイラリオにも銃を向ける。ウォールデンが冷静な状態ではなかったこともまた真実であったのだ。

敵の斥候が迫る絶体絶命のあの状況でモンフリーズが逃げ出そうと言ったことを、ウォールデンが仲間を守るために残ると言ったことを、誰が責められようか。結果的には、反逆者も英雄も存在しなかったのだ。

事実を明確にしたことで、自殺とはいえ死人が増え、ウォールデンは名誉さえも失ってしまった。死んだ人間に追い打ちをかけるようなことをするのが本当に正しかったのか。戦争の根幹にある、良い悪いで片付けられない複雑な問題をこの映画は浮き彫りにしている。

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